大宮駅西口徒歩2分 落ち着いた隠れ家的な飲食店「Sakuragi」
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2007年05月15日

no title story

-chapter 1-

「いらっしゃいませ」

ダークブラウンの色合いにほのかな照明。
落ち着いた感じの店だった。

ちょっと裏通りに入った、入り口の左側にしゃれたローマ字の店名の書かれた大きな木の看板。
ゆったりとくつろげる店。そういった噂をきき、今回の待ち合わせはこの店と決めていた。

カウンターで一人エビス生を飲みながら、彼女の到着予定まで20分。ゆっくりと考えをめぐらす。

3年ぶりに聞く声だった。

「もしもし、リュウイチ。ひさしぶりね。
今度の土曜日、日本に行くわ。
8時には大宮に着くと思う。
会いましょう。」

ろくな会話もない電話だった。彼女らしい。

3年前がよみがえる。
 彼女の作ったなぞのカクテルで大いに騒いだ伊豆のパーティ。
 ばかで間抜けな大統領も行ったレストラン。
 日光へのドライブ。
 ・・・

突然だった。
「ロンドンに帰ることにしたの。今まで楽しかったわ。
さようなら。」

その後特に頻繁に連絡を取り合っていたわけでもない。
それがまた突然の電話。

何をしにくるのだろう。
でもとりあえず会ってみるさ。扉は開けるのがスタイルだろ。

エビスは半分になった。予定時刻まで後5分。

もうすぐ会える・・・

投稿者: sakuragi 日時: 2007年05月15日 00:38 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2007年05月16日

no title story

-chapter 2-

「まもなく大宮に到着いたします」

バスのアナウンスでふっと現在に引き戻される。

成田についてバスに乗り、3年ぶりの日本の景色を見ながらも私の心は別にあった。


3年前、彼との時間はかけがえのないものだった。
クールに接しているように見せていたけれども、ハートのベクトルはいつも同じ方向を向いていた。
彼はヒーローだった。

でもそれは突然おそってきた。
言いようがない不安。
生まれ育った国を遠く離れての暮らし。
帰らなくてはという強迫観念のようなものだった。
彼とのつながりを強く求める心の反動だったのかもしれない。

ロンドンに戻った直後はバランスを取り戻すことができたと思っていた。
でもイメージの片隅にいつも彼の存在があった。
それは徐々に大きく、現れる回数が多くなっていった。

自分をだませるのは3年が限度。
振幅の少ないバランスより、大きなうねりとともに。

エアチケットを買い、彼に電話をした。
でも、間単に用件を伝えることしかできなかった。
相変わらずだと思われてしまったわね。きっと。

今回の日本、帰りのチケットは予約していない。
まず彼に会って自分の心がどう言うか・・・


バスは大宮に到着。
店の場所は彼からメールでもらっていた。

それほど来た町ではないのに、通りもよく覚えている。
店が見えてくる。鼓動が少し早くなった気がする。

扉を開ける。

イメージの中と変わらない顔がそこにある。
片手を軽く挙げ立ち上がる。

「ようっ」 と口が動いたように見える。

懐かしい彼の腕にハグされる。
耳元で久しぶりに聞く声。

「お帰り、シャーロット」・・・

投稿者: sakuragi 日時: 2007年05月16日 00:38 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年05月17日

『わぁ、映画みたい。』

坪谷恭子は店の入り口付近でハグをしている男女を見て、つい最近観た映画のワンシーンを思い出した。

『確か映画の2人は数年ぶりに顔を合わせるということになってたけど、あの2人もそうなのかなぁ。』

キレイなストレートの背の高い外国人女性と、日本人ながら彼女に負けないくらい背の高い男性を交互に見ながら映画のストーリーを思い返していた。あの映画は2人ともアメリカ人だったけど。

「・・・でね、」

目の前に座っている男の声で、意識はようやく入り口からそれた。初めて来るこの店で食事をすること、これも彼女の仕事の一部。恭子は男の話を強調する少し上がった声でそのことを思い出した。

恭子は東口にある南銀でキャバクラ嬢をしている。「一人じゃさびしいから、恭子も一緒にやろ~よ。」という友人の誘いで3ヶ月前から始めた。想像以上にハードな仕事ではあるが、嫌だから辞めたいといういつもの気持ちは出てこない。何に対しても飽きっぽい恭子には珍しいことなのだ。

今日は仕事は休みなのだが、店の客の小川と食事に来ている。いつもたくさんお金を使ってもらってるから、休みの日でも食事くらいはいいだろうと今日の誘いを受けた。

「・・・なんだよ。ハハハ」

男の軽い笑いに合わせ、恭子もニコリと笑顔を作り、フフと小さく笑った。
話の内容なんて大して聞いていない。ただ、相手に合わせて頷いたり、ケラケラ笑ったりすればいい。そのタイミングさえ逃さなければいいだけ。彼が欲するものは、会話の内容に沿った質問よりも、同意なのだから。

「それでさぁ・・・」

次の話が始まった。話を聞く姿勢を崩さず、表情もそのままに再び恭子の意識は男の話から逸れた。
恭子の意識は再び先ほどハグしていた2人に戻った。

『恋人どうしなのかなぁ。でもそれなら会った時、あんなに懐かしそうな顔は普通しないよなぁ。あ、でも、遠距離恋愛ならするかなぁ。』

映画の続きでも観るように2人の様子を眺めていた。

『女の人のまつ毛長っ。お人形みたい。あぁ~、外人は美人でいいなぁ。・・・あ、来週からパイレーツオブカリビアン始まるなぁ。オーランド・ブルームかっこいいよなぁ。沙紀と行く予定決めなきゃ。そういえば、今度の休みに買い物行こうって言ってたけど、どうすんだろ。行くのかな。今月もう余裕ないから中止になったらなったで嬉しいなぁ。でも、こないだみたサンダルやっぱり欲しいんだよなぁ。思い切って買っちゃおうかな。見たらまた悩んじゃうなぁ~。あ~・・・』

「・・・大丈夫?」

小川に顔を覗き込まれてフと我に返った。ちょっと意識をそらし過ぎてしまったようだ。

「あぁ、ごめんなさい。少しお酒が回ってきちゃって。お茶でももらおうかな。すいませぇん、ウーロン茶1つくださぁい。」

休みだからといって少し気を抜きすぎてしまった。ほんの数秒、小さな反省をしたものの小川の話が始まると再び意識は目の前の小川をすり抜けた。

『・・・で、結局あの2人はどういう関係なんだろう。』

投稿者: sakuragi 日時: 2007年05月17日 08:20 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年05月19日

Chapter 4

「・・・でもね、リュウイチさん」

今日で3度目だった。
3年ぶりにシャーロットと会ったあの日以来、何となくこの店に特別な思い入れ・・・というか、親しみを覚え、つい立ち寄るようになっていた。

カウンターの背もたれが普通の店よりも高く、しっかりと寄りかかれる事もあってか、ついつい酒の量が増える。

マスターの石井は偶然リュウイチと同い歳で、2度目の時から気安く会話が出来るようになった事もリュウイチを1人で今日も立ち寄らせる一因になっているかもしれない。

「リュウイチさんとこの間の女性に何があったのか、私は知らないし、知ろうとも思わないけどね、同い歳のオジサンの負け惜しみだと思って聞いて下さい。
私は貴方の生き方を応援しますよ。できる事なら、ずっとこのまま楽しく暮らして欲しい。私だって同じ様にしたい。・・・でもね、私みたいに考える人は少ないですよ・・・」

普段はあまり自分の事を話したがらないリュウイチだったが、この一見ヤル気のなさそうな同い歳の男の前では、つい自分について多く語る様になっていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


リュウイチの後ろのボックスの席で、若いサラリーマンが酔った上司にお説教をされ、背中を丸めて小さくなって謝っている。

「お前が下の者を引っ張ってくれなきゃ困るんだよ!」

・・・言い捨てて、上司はトイレに立った。

トイレの扉が閉まったのを確かめる様に見て、小さな声で

「あんたみたいに役職手当もらってる訳でもないのに、そこまでやれるか・・・っつうの!!」

若者は残った焼酎を一気に飲み干し

「マスター、おかわり!飲まなきゃやってらんないっすよ・・・」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ほとんどの人は、ほんのわずかなお金と休暇と安心の代償としてたくさんの嫌な思いとストレスを抱え込んで生きてる。それが当然だって自分に言い聞かせて、なんとか会社や社会に溶け込んで行く。まぁ、それが一番楽な方法でしょうからね・・・でも貴方はそんなちっぽけなお金や安心なんかより人間らしく生きる方を選んだって事でしょ。
でもね、リュウイチさん。それを女性にわかってもらうのは大変だと思いますよ。日本人に限らず、女性は皆”安心”なしでは生きられないでしょうからね・・・」

いい加減、早い時間からお客と一緒になって飲んでいたらしい石井が酔いがまわってきた様にしゃべる。

リュウイチは複雑な思いで石井の話を聞きながら、3年前の女の泣き顔を思い出していた。

「・・・・・シャーロット・・・・・」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「え?リュウイチさん、エシャロット?食べるの?」

「いや、何でもない」

酔っぱらった石井のまぬけな一言で現実に戻ったリュウイチの耳にBGMが皮肉に聞こえてきた

♪ Let it be Let it be ・・・ ♪


投稿者: sakuragi 日時: 2007年05月19日 06:19 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年06月12日

議員宿舎

あと30分・・・

腕時計で確認する。
彼はもうすでに1時間前から部屋の中に侵入し、ひそかに待っていた。
待つのは苦にならない。

どこにでもいる議員秘書のようなダークグレーのスーツ。
足元には小型のアタッシュケース。
ちょっと見ただけでは全く印象に残らない普通の彼はじっとたたずんでいる。


緻密なリサーチをし、計画は完全に練ってあった。
ターゲットが宿舎の部屋に戻る時間、その前数時間は部屋が無人になること。

ただ、いつも余裕をもってスタンバイしておくのが彼のスタイル。
急な事態にも十分に対応できるようにしてある。


今回の依頼があったのは1ヶ月前。ターゲットの議員の不正問題がニュース沙汰になる前だ。
世の中のほとんどの人が考える以上に深い闇の世界は存在する。

ただし、かれは特定のグループの人間ではない。
あくまでも依頼を受け、それを実行する。そして報酬をうけとる。
失敗はない。もう15年は闇の世界での第一人者だった。

第三者の関係を全く感じさせずに依頼を遂行する。
事故、病気、自殺・・・
これをパーフェクトにできるのは彼だけだった。


再度時計に目をやる。
そろそろ時間だ。
かすかにモバイルが振動する。
『soon』
ターゲットを監視しているLBからメールがはいった。
準備してきたものを確認する。

OK。

指先を特殊な非常に薄いフィルムでコーティングした指で、そっとアタッシュケースから用意してきたものを取り出した。

やがて鍵穴にキーが差し込まれる音がうす暗い室内に響いた。

「カチャッ」

投稿者: sakuragi 日時: 2007年06月12日 00:42 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年06月13日

議員宿舎-2

今日もタフな一日だった。
マスコミにまとわりつかれ、議会では激しい質問攻め・・・

しかし乗り越えてみせる。
なんとかこの嵐を過ごし、次の選挙で禊をすませれば、国民は忘れるさ。

宿舎の入り口でガードに笑みを向け、建物内に入り、ようやく張り詰めていた気が緩むのを感じる。
エレベーターを降り、自分の部屋に向かう。

「カチャッ」

鍵をあけ暗い部屋に入る。
ここのところの騒動から逃れるため、部屋にはスタッフを入れないようにしていた。
「ふうっ」とひとつため息をつき、冷蔵庫からビールを一本取り出しリビングのソファに腰をおろす。

目を閉じ、ビールを流し込む。

・・なぜ、おれがこんな目にあうんだ。
皆がやってることをしていただけなのに・・・
まるで、それまで守られていた砦から突然放り出された気分だった。

とにかく今日は乗り切った。明日のために休んでおかねば・・・

一本目のビールを飲み終えた後だった。

ちくっ

首筋に痛みを感じ、振り返る。
そこには知らない顔があった。

・・誰だ!

声が口から出る前に意識はブラックアウトしていった・・・

投稿者: sakuragi 日時: 2007年06月13日 01:56 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年06月14日

議員宿舎-3

ターゲットが部屋の入ってきたあともしばらく気配を消していた。

ターゲットが部屋にいたにおいを残す。
その議員は物思いにふけりながらビールを飲んでいる。

しばらくしてビールが空になった。

彼はアタッシュケースから小さな筒を取り出し、キャップをはずす。
中には液体を塗った針が仕込んである。

気配を消したままターゲットに忍び寄り、首筋に筒をあて小さなボタンを押す。
針がささった瞬間、ターゲットが振り向き何か言おうとした。
しかし、あっという間に意識を失う。
すばやく、倒れこまないようにターゲットの頭を抱える。余計な外傷は不要だ。
脈を調べる。しっかりしている。
OK

針の先に塗ってあるのは特殊な薬だった。
南米アマゾンの奥地で取れる植物から抽出したもので、命を奪わずに一瞬に気を失わせることができる。
そして、体内に薬物の痕跡を残さない。
彼独自のコネクションで手に入れたもので、他に使っているものはいない、全く無名の薬だった。

ターゲットを抱えたまま、すばやくドアの下に移動させる。
そして手ぬぐいを首に巻き、ノブにつるした。

痙攣がおさまり、絶命したことを確認すると、彼はリビングに戻る。
そして数枚の紙を取り出した。
もう一度さっと目を通す。

いつもながらLBの仕事は完璧だった。
事前に入手しておいたターゲットの筆跡を独自のソフトで解析し、
筆圧まで再現する装置を作って書き上げたものだ。
ペン、紙も調べておいたターゲットのものと同じ。
完璧な遺書だった。

最後に遺体に目礼する。
明日には議員の自殺がショッキングな事件として新聞やテレビを賑わすだろう。
ただ、個人的な感情は全くない。

LBにメールをする。
『END』
どこかに潜んでいるLBが宿舎内の監視カメラを操作し数分だけ彼を invisible にしてくれる。

そっと部屋を出ると、階段をおり玄関から宿舎を後にした。
その後はいつもの方法で現場を離れる。
地下鉄をランダムに数本乗り継ぐ、
大型百貨店の化粧室でカジュアルだがやはり目立たないジャケットとチノパンに履き替えた。
さらに徒歩と再び地下鉄を乗り換え、普通なら1時間しない郊外の自分の家にたどり着いたのは3時間後だった。

自分の部屋に入りパソコンを立ち上げる。
依頼もすべてメールでやっている。
さまざまな箇所を中継するようにし、この部屋にはたどり着けないよう、LBがうまくやってくれていた。

今回の依頼者に結果を打った。これで残りの半金が送金されてくる。

『 fin R 』


投稿者: sakuragi 日時: 2007年06月14日 00:31 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年06月15日

議員宿舎-4

メールを送信し終え、コーヒーを淹れにキッチンへ向かうと、

ピ~~ンポ~ン 

と部屋のチャイムが鳴った。

こんな時間に・・・、と少々怪しんだ男だが、仕事を終えて空腹だったため、出前の届け間違いだったらラッキー☆というお茶目な気持ちになり、インターホンで相手を確認しないままドアを開けてしまった。

ガチャ

ピザを食べる気満々になってた男の前にいたのは、ピザ屋のお兄ちゃんではなく、キッツイパーマをかけた「いかにも」という風貌のオバチャンだった。

「どぉ~もぉ~、ハウスクリーニングでぇす」

満面の笑みで言うと、オバチャンはズカズカと部屋に上がりこんだ。その勢いには遠慮なんてものはなく、大また蟹股で奥のリビングまでわき目も振らずまっすぐ歩いていった。

「ちょ、ちょ、ちょっとまってよ。ハウスクリーニングなんて頼んでないよ。家じゃなくて他だろっ。分かったら出て行ってくれよ」

ピザを食べる気分を壊され、少々イラッとしながら文句を言った。

「なぁ~に、寝ぼけたこと言ってんだい。アタシの顔を見て誰だかわからないのかいっ」

このボケババァ~、と思いながら顔を直視してみる。

・・・キツイ

思わず顔をそらしてしまったが、分からないのも悔しいので、もう一度トライ。

・・・ダメだ、分からない

無言でいると、オバチャンは「・・・まったく、昔付き合った女も分からないのかい」とため息をついた。
はぁ?、ストライクゾーンが広いとはいっても、こんなヤツはいなかったはずである。忘れている自分よりも、そのオバチャンと付き合っちゃった自分にショックを受けていると、オバチャンが

ベリベリベリッ

頭と顔と肉襦袢を取った。
そして、中から現れたのは ヨシエ だった。

「ヨ、ヨシエ。 なんで・・・」

男の驚いた表情を見て満足そうに、ヨシエはニヤリと微笑んだ

投稿者: sakuragi 日時: 2007年06月15日 08:43 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年06月16日

議員宿舎-5

突然のヨシエとの再会の驚きとともに、あんだけ注意深い行動にも関わらず自分の居場所が分かってしまったことへの驚きもあり、一気に空腹感は飛んでいった。

「な、なんでこんなところに。それに、どうしてここが分かったんだ。」

「背中に発信機をつけてあるから。」

発信機ぃ~!?
仕事を終えて帰宅する途中で着替えたからそんなものついていないはずだ。
誰かにぶつかった?・・・いやいや、少しでも人に顔を印象付けるということは危険なことだから、ぶつかることなんてない。じゃ、どこで。ってか、どこについてるんだ?

手で背中確認していると

「ま、そんなことはどうでもいいんだけど。今日はお願いがあってきたの。」

どーでもいいのかよっ、とサマーズの三村のような突込みを入れたかったが、ヨシエの表情が変わったのでやめた。ヨシエは持ってきた大きな黒いバッグを静かに開け、大切そうに両手で中のものをつかんだ。そして、中からヨシエが抱き上げたものは、

   赤ん坊   だった。

「1ヶ月間この子を預かって欲しいの。この子はそんじゃそこらの子じゃないの。あなたに預けるってことは・・・言わなくてもわかるよね。」

シリアスな雰囲気のせいで思わず頷いてしまった。

「オムツはこれ。なくなったらメーカーは気にしないから通気性の良いやつを買ってあげて。ミルクはこれ。哺乳瓶の消毒はちゃんとしてね。泣いたらあやしてあげて。あ、その時にオムツもチェックしてね。これはお風呂の入れ方で、これはひよこクラブで・・・」

男の頷きを承諾と受け取ったヨシエは赤ちゃんの世話について一気に説明し始めた。

「ちょ、ちょっ、ちょっと待てよ。」

ホリがキムタクのマネをするような感じで、男はヨシエの説明をさえぎった。

「面倒な理由があるからオレのところに預けにきた、ってのは分かる。でもまだ預かるとは言ってねぇだろ。嫌だよオレ、赤ん坊なんて世話したことねぇし。だいたいさぁ、俺の生活分かんだろ。消すの専門で、育てるのは専門じゃないの。分かったら悪いけど他を当たってくれよ。」

「そうわかった・・・。」

「わりぃな。」

どうして謝ってんだ、と腑に落ちなさを感じつつも、シュンとしたヨシエを見て頼みを聞けなかったことに悪いと思った。しかし、

「でも大丈夫!何事も経験でしょ?こんなチャンスめったにないよぉ~?それに、小学校の頃飼育委員だったじゃん。基礎はあるから平気でしょ。私時間がないの、急がなきゃ。何かあったら連絡するから!ってことでよろしくねっ、じゃ!」

最後の言葉を言い切る前に、ヨシエはリビングに背を向けていた。来た時と違ってキレイにまっすぐ玄関に向かった。男が文句を言う前に、玄関は閉じられシーンとした部屋には赤ん坊と男の2人きりになった。

玄関の方に向いていた身体をリビングの方にやると、ソファーの上でムニムニ動く赤ん坊が目に入った。

どぉーすんだよコレッ!

投稿者: sakuragi 日時: 2007年06月16日 09:52 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年06月17日

ソファーの上にいる赤ん坊を取り合えず抱き上げてみた。

抱き上げた赤ん坊はとても柔らかく、あたたかいというより熱く感じた。
男にとって赤ん坊を触ったのはこれが初めてのことで、ナゼだか自然と胸のあたりが温かくなった。それまでの男の人生の中では感じたことのないものだったので、男はその感覚に少々戸惑った。

1ヶ月か・・・、と呟いて、ヨシエが置いていった荷物の中から育児書を取り出した。それを読みながらオムツを替えたり、ミルクを作ったりしてみる。初めてのその作業が嫌でないことが不思議だった。お風呂に入れるのはとても緊張し、自分が手を滑らせてしまったらと思うと、指の先まで神経を集中させた。

なかなか面白いじゃないか、と預かるのも悪い気がしなくなってきた時、メールに次の仕事の依頼が来ているのを見つけた。いつもだったら受信を確認しても何とも思わないが、その時は受信の確認を見たくないと思った。不慣れな温かさを感じた心は、すぐにいつものフラットなものへと変化した。

依頼はまたLBからのものだった。。。

投稿者: sakuragi 日時: 2007年06月17日 11:28 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年06月18日

議員宿舎-7

リビングの50インチ型のテレビが現職大臣の自殺のニュースを映し出している。どの局も同じニュースでもちきりだった。医師の会見、同僚のインタビュー、国会中継のリプレイ・・・が、特に注意深く見る気もない。彼の頭の中はもう次の仕事の事を考えていた。

こんな事は容易に想像できていた。前回のクライアントが今回のターゲット。奴等の世界では良くある話だ。
だが今回のターゲットはちょっと大物だ。より綿密な計画を練らなければならない。タイムリミットは8月いっぱい・・・7月の選挙で負けるか、辛くも勝ちを拾ったにせよ、もう奴はお払い箱ってことだろう。まぁそんな事は彼の知った事ではなかったが失敗は許されない。彼は今までに請け負った大きな仕事をもう1度思い出してみる。

平成の顔として頭角をあらわし、頂点まで上りつめたOの時、ダンディーな風貌とものごしで一世を風靡し、その後も党内最大派閥の長として君臨しつづけたHの時・・・。

いずれも仕事の難易度でいえば今回以上。あの時に比べれば今回はたやすい仕事に思えるが・・・大きな違いは2点。

1つは、ターゲットがまだ若い事。ターゲットが老いていれば消してしまう方法を多くの中から選択できる。しかし、若くて元気な人間に自然な感じで消えてもらうには少々無理をしなければならない。

そしてもう1つ。
今回の最大のポイントはタイムリミットだ。

普通、ターゲットが大物になればなる程、時間はたっぷり与えられる。短くて3ヶ月、通常は半年後にフィナーレを迎えれば良い。それだけ準備が大変なのを依頼する側も分かっているのだ。しかし、今回は・・・LBからのメールには何の感情もない、いつもの様にごく事務的なことが、なおさら「NO」と言わせないものを感じさせている。もちろん「NO」というつもりはない。いつもの様に淡々と片付けるだけだ。むしろ難しければ難しい程、彼は静かな闘志を燃やす方だ。

「・・・ハードな2ヶ月になりそうだ。さっそく準備にかかると・・・☆☆!!!???」

スヤスヤと眠っているので、すっかり忘れていたが、淡いイエローのベビーウェアを着た赤ん坊が夢でも見たのか、カーペットの上でクスクスと顔をゆがめて泣き出しそうになっているのが目に入った。

「1ヶ月預かる~~~~~?!」

投稿者: sakuragi 日時: 2007年06月18日 17:43 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年06月19日

Charlotte

「bye Charlotte! c u tomorrow!」

同僚たちが、手を振って分かれていった。

日本に戻ってきてから約2ヶ月、以前働いていた英会話教室で再び働き始めている。

今日はこれからリュウイチと食事。
待ち合わせは、彼と再会して以来なじみになってしまった店。
いつも気さくなマスターが作るおいしい食事で、くつろいでいる。

しかし、今日は店に向かいながら心の隅に引っかかるものがあった。

・・・このままでは、以前の関係と同じになってしまう。
  今日はリュウイチの気持ちをはっきりさせなくては・・・

リュウイチとは彼の部屋で一緒に暮らしていた。
ただ、彼は仕事といって部屋に帰ってこないことも多い。
実際、少しはなれた場所にオフィス用の部屋もある。
また、出張でしばらく姿をみせないこともある。

彼はフリーの工業デザイナーだった。超一流というわけではないが、時々彼のデザインした物を見つけることもある。
でも、それだけではない何かを彼の背後に感じていた。
はっきり聞いてみたいのだけど、それが明らかになったらすべてが壊れてしまうような気が。

でも、今日こそは何かしないと・・・そんな思い出店の扉を開けた。

「いらっしゃいませ」

リュウイチはすでにカウンターでマスターのイシイと談笑していた。

席に着くとすぐに小皿が一品出された。

「はい、エシャーロット」マスターが笑顔をくれる。
隣でリュウイチが笑っている。
私の名前に似た物らしいこの野菜、最初はマスターの ”おやじギャグ”(英語でなんと言えばいいんだろう? で食べさせてもらったものだけど、結構気に入っていた。

店に入る前のシリアスな気分も忘れ、ついつい私の口元もほころぶ。

・・・とりあえず楽しく食事ね。
エビスを口に運んだ。

投稿者: sakuragi 日時: 2007年06月19日 23:52 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年06月21日

Charlotte

「じゃあ マスター、おあいそ」

リュウイチが会計をすませ、帰路につく。

さっきまでの楽しい気持ちから、すこし心が重くなっていく。
やっぱり、今日こそリュウイチに聞かなくては。
彼の見えない部分まで知っておかないと、またついていけなくなる・・・

部屋に着き、リビングに入ったところで背中に呼びかけた
「ねえ、リュウイチ」

「ん?」
振り向いたリュウイチと目が合う。
次の言葉が出ない私に彼が近づく。
次の週間、自然と唇が合わさってしまう・・・
あたたかな舌の感触で聞きたいことが逃げていく・・

彼の手が背中からブラウスの中に滑り込んでくる。
背骨に沿って上下した指先が前にまわる。
体の中心が熱くなってくる・・・
伝えたかった言葉は完全に消えていった。

彼の手は滑らかに下り、一番熱い部分にそっと触れる。

「あっ・・・」

声が漏れた。

投稿者: sakuragi 日時: 2007年06月21日 00:45 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年06月25日

R's Room

「お昼のニュースです・・・。
埼玉県警は、生後3ヶ月の幼児を床に落として殺害したとして、幼児の母親の内縁の夫、23才を殺人の容疑で逮捕しました。事件当時、母親は外出しており、男は”赤ん坊が泣きやまず、イライラしてやった。殺すつもりはなかった。”と供述している、との事です。」

~~~~~~~~~~~~

「ん~~~、信じられん。落とせるか~?こんなモン。バカな奴だ。
俺には出来ないね・・・」

チャンネルを換えながら、自分の心境の変化に自分でも驚いていた。
いつだってクールに仕事を最優先させてきたじゃないか・・・人とふれ合うのは、あくまでも次の仕事のためのリフレッシュ、そう割り切れていたはずだ・・・。

「おー!キンポッポやってるじゃん!なつかし~、まだやってんだ~。
おー!!ムチャポン泳いでる、スッゲー!ガックも変わってねー!!
おい、ほーらキンポッポでちゅよ、見てごらん・・・っつってもわかんねーか・・・まだ。
反応ナシ・・・かよ。」

赤ん坊はあお向けになったまま、両手を上げて、じっと不思議そうに自分の手の動きを見つめている。まるで、ここに力を入れるとここが動くんだ、こんな形になるんだ・・・と1つ1つ確かめているかの様に見える。

こなんい安らかな気持ちになるのは、何時以来だろう。
自分にまだこんな感情が残っていたなんて・・・

この仕事が終わったら足を洗っても良い。表の仕事だけでもこの子と2人食って行くのに何の不自由もない。安心して少しの間この子を預けられる知り合いは居ないか。今頃になって、あえて他人と馴れ合う事を避けて生きてきた事が悔やまれる。

本当に自分の子供かどうかなんて事は、もうどうでも良くなっていた。
ジャングルに捨てられても、狼が育ててしまうように、自分では餌を採ることさえ出来ないくせに、この小さな生き物はものすごい力で自分の生命を維持しようとするのだった。


投稿者: sakuragi 日時: 2007年06月25日 13:45 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年06月26日

R's Room

ふとカレンダーに目が留まる。

赤ん坊を見ながら緩んでいた目に暗い光がともる。

タイムリミットが迫ってきていた。
ターゲットの観察はいつものようにじっくり行い、その生活を解析していた。
そして、ミッションの実行手段も何パターンか作り上げてきている。
すでに計画を伝えたLBも、いつものような鮮やかさで準備をしているはずだ。

実行手段の再検討を始めた耳に、赤ん坊の立てる物音が入ってきた。
ミッションに対する集中がかけている。
このままではまずい。
失敗は文字通り命取りになってしまう。
何とかしなくては・・・

投稿者: sakuragi 日時: 2007年06月26日 13:22 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年06月27日

R's Room

やはり、あの人にお願いするか・・・

わけもわからず押し付けられた赤ん坊だったが、今回の仕事を片付けるまでは預かってもらうしかない。

そうさ、すべてが終わったらもうこの世界からはリタイアし、赤ん坊はずっとこの手で育てていこう。
普通の人間の幸せを感じられるようになるかもしれない・・・

電話を持ち、数少ない知り合いの中で信頼できると思う男の番号をダイアルした。
知り合ってからそう長いわけではないが、彼なら大丈夫だろう・・・

数回の呼び出し音の後、彼が電話に出た。

「はい、あーどうも、いつもありがとうございます!」
「予約ですか?・・・えっ? そうじゃなくて・・・頼みごと? なんですか?」
「あーなるほど、そりゃまたなんだかわけありですね」
「まあでも、細かいことは聞きませんよ。自分は赤ん坊大好きですからね。お得意さんの頼みとあっちゃ、喜んで引き受けますよ!」
「もちろん他の人には誰から預かったなんてことは一言も言いませんよ。まかせてくださいな」
「じゃあ、4時くらいに店に来てくださいな。その頃は誰もいませんから」
「はい、お待ちしてます~」

よし、これでいい。

赤ん坊を抱き上げる。
しばらくこの子を見れなくなると思うと寂しさを感じている。
そんな自分の感覚にまた驚きながら、店に向かうべく部屋をでた。

投稿者: sakuragi 日時: 2007年06月27日 00:55 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年08月27日

8月ラストスパート!

 先週は、三洞さんとべんちゃんがグビグビ飲んでるのに、そそくさと逃げ帰った私、マスターです。
昨日は夏休み最後の日曜日ということで、例によってかみさんとしたのボウズに振り回され、ふらふらの月曜日を迎えておりますが…今週もリポD,フェイタスの力を借りて頑張りまーす!
  …………………………………………………………………………………………………
 TIME LIMIT

 選挙は予想どうりの大敗。
 馬鹿な男だ…これまた予想どうりの続投表明。
 外遊を終え帰国、内閣改造。

 すべて予定どおりに動いている…TIME LIMITまで一週間。
 LBからは変更の指示はない。
 
 そろそろ…動き始めるか。失敗は…死を意味する。俺も、LBも。
 今までに失敗を、死を恐れたことなどなかった。
 …が、今回は…
 最後にしよう。これが終わったら南にでも行って暮そう。

 元気にしているだろうか…赤ん坊の顔が浮かんでは消えていった。

 …………………………………………………………………………………………………

 というわけで、べんちゃん、うっちー、いきなりのフリですみません。

 ??何??何がはじまったの?…という方、お手数ですが5月、6月ごろのブログを見てみてください。
 よろしくお願いいたします。

投稿者: sakuragi 日時: 2007年08月27日 11:03 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年08月28日

LB

今回が最後の仕事だろうな・・・

Rと仕事をしてもうだいぶたつ。
知り合ったのは、ハッキングをしまくっていた学生時代だった。
絶対にばれないと思っていたのに、奴にはなぜかつきとめられた。

そして突然目の前に現れた。
最初その目を見たときは、死を感じたっけ・・・

しかしその時は、奴はもう僕のことは十分に調べていたと思う。

それから、奴から頼まれるようになった。
ネットワールドでの仕掛け、いろんな電子装置、、、
奴もかなり詳しい。
僕ほどじゃないけどね

実際、奴の仕事をしているところは見ていない。
顔を合わせることほとんどない。

おそらく、僕の安全を気遣ってくれているのだろう。
いや、奴自身の安全のためか・・・


いずれにせよ、今度の準備の中でなぜか感じる。
奴は今回を最後にしようとしている。

まー僕も引退するさ。
かなりの額を稼がせてもらったし。

引退して何しようかな、、、

おっと、奴からメッセージだ。

「今回は車でいく」

了解したよ・・・

投稿者: sakuragi 日時: 2007年08月28日 13:09 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年08月29日

2世

選挙は散々だった。

幼少のころから何一つ不自由なく育った私に、庶民の気持なんかわかるわけなかろう!

もともと、その私を担ぎあげた党が悪いんだ。

しかし、せっかくつかんだポジション。

そうそうたやすく離す気はないぞ。

くそ爺さんどもが外野でがたがたわめいているが、気にすることなんかない!

どうせあいつらも操られている木偶の棒じゃないか。
国民みんなが注目した事件よりゴルフを優先したり
パーティの金勘定しかできないやつ
料亭でくだらない話をするだけのやつ・・・
あんな奴らに投票する国民なら、2世のぼんぼんの私を支持してもいいだろう!

しかし本当に怖いのは爺どもを操っているほうだ。
私も直接の存在は知らない・・・
でも次に狙われるのは私だろう。

いま、私がいなくなれば操り人形しか残らんからな。

しかし、だまってやられはしない。
首を吊ったと思われている大臣の二の舞になんかなるものか。

こちらも対抗できる人間を用意してある。
私を狙おうとしたやつを仕留め、今後の展開に優位な状況をつくってやる!はははは!

おっと、そうそうあいつに連絡しないとな
選挙だ外遊だと、しばらくあっていなかったからな。
あの女、うるさくてかなわん。
しかしその分いい女をそろえているからな、
そうだ今度は外人の素人でもそろえてもらうか、ひひひひひ・・・・

投稿者: sakuragi 日時: 2007年08月29日 15:36 | | コメント (0) | トラックバック (0)

Charlotte

はぁ

今日の仕事はおしまい

一人だけどちょっと飲んでいっちゃおうっと

・・・

「おっ、べっぴんさんいらっしゃい~!」
「あれ、今日はリュウイチサンは?」

そう、最近リュウイチは仕事が忙しいらしくどこかにいったっきりのことが多い。

「まーうちはきれいな人はお1人でも大歓迎だからね!」
「はい、これ。サービス!」
「しんこ っていうんだよ。こいつが大きくなると こはだ って名前がかわるんだい。イギリスにも名前の変わる魚はあるのかい? 日本にね・・・・・・・」

あっ、美味しい魚。
マスターって楽しいね。魚の名前のはなしはちょっとわからないけど。くすっ

あら、赤ちゃん
まさか、マスターの?

「あーその子はね、ちょっとわけありで今預かってるんですよ。かわいいでしょ~・・・・・・」

かわいいわね。あかちゃん。
そろそろ私も・・・・


そろそろ帰ろうかしら

「おっ お帰りかい。ありがとうございました。」
「また一人でも寄ってちょうだいよ!」

さー明日も仕事しなきゃね。
そういえば、マネージャーから特別なパーティーの仕事頼まれたんだっけ。

なんかVIPさんらしい。
英会話をちょっとしてくれるだけでいいってことだったんだけど。

なんかあのマネージャーのおばさん好きになれないのよね。
まーでもお金がいいから、ちょっとぐらいがまんしよっと。

じゃ、マスターおやすみなさい。またね!

投稿者: sakuragi 日時: 2007年08月29日 16:20 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年08月31日

大きな仕事だけあって、目標に達するまでに片付けなきゃいけないのが多い。
この数日は片付けばっかだ。

危機感を感じるヤツは数人を盾に使う。
こんなもん、ただの時間稼ぎにしかならないのに。
どこかで止められるとでも思ってんのか、まったく。

自分が生きたいがために何人も犠牲にして。。。
そういうヤツのが悪くないか?
ま、いいけどさ。

片付けるのなんか難しいことではない。
無駄な騒ぎを立てず、スムーズにことは済ませられる。

・・・でも・・・

ひとり、またひとり片付けてく度に締め付けられるような胸の痛みが大きくなる。

呼吸がうまくできなくなってしばらく壁にもたれ、それがおさまると大きな虚無感に全てをスッポリ飲まれてしまう。どっちが死体なんだか分からないくらいだ。

「コイツはどんな風に生きてきたんだろう?」

「どんな家族なんだろう?」

「子供は?」



「幸せだったか?」

自分にとっちゃ関係ないようなことが頭をめぐり、全ての思考をもってかれる。









・・・ 苦しい ・・・








何のためにこんなことしてんだ。


・・・ガタッ


ハッ。
・・・これが最後。
何を余計なこと考えてんだ。何も考えるな。

なんか疲れたな・・・


投稿者: sakuragi 日時: 2007年08月31日 07:39 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年09月01日

もぅ、グデグデ・・・。
最後なのに、半ばヤケになってる自分がいる。

失敗=死。
余計な思いなんかいれてはいけないのに。
思いを無にしようとすればしようとするほど、余計なことが頭の中に涌いてくる。

今回だけは生きて帰りたい。
あの子のためにも生きて帰らねば。

・・・今頃どうしてるかな。ぐずらないで寝てるといいけど。
アイツ最近夜中にグズって起きるからな~。
遊んでやんないと寝ねぇし。マスターの仕事の邪魔してないといいんだけど。

赤ん坊のことを考え始めると、それまで重くのしかかっていたモノがフと軽くなるから不思議だ。

お、何だかお腹も空いてきたぞ。
お店に行ったら何かうまいもんを作ってもらおう。






「すいません、ありがとうございました~」

お店に入ると、ちょうど帰ろうとしたシャーロットがいた。

「あ」

「おぉ、シャーロット。来てたんだ。久しぶりだね」

「本当、いつ以来だっけ? まだ仕事は忙しいの?」

「あ~。何だかね。」

自分が何をしてるかなんて言えるわけがない。

「おかえりなさ~い」

赤ん坊をあやしながらマスターが迎えてくれた。

「ありがとうございました。すいません・・・起きちゃってて。仕事の邪魔になりませんでしたか」

「いや、全然。また預からせてよ~」

「そういっていただけて有難いっす。またお願いします」

「あぁ、その子リュウイチの子だったんだ」

あまりに突然のことだったから、シャーロットに話してなかったや。

「あ、いや、オレの子じゃなくて、知り合いの子でさ。しばらくの間預かることになってんだよ」

「ふーん。 私に言ってくれれば良かったのに。日本の子育てってのがどんなのか分からないけど、預かるくらいなら私にだって出来るけど?」

「だってお前仕事入ったりするだろ?話が来て動けないとなったら悪いなと思ってさ」

「あ、仕事って言えばさ、今度英会話の仕事でホテルのスイート行くの。スイートだよ?すごくない?そんなトコ入ったことないから楽しみぃ。」

「へぇ、そりゃすごいね。どこのホテル?」

「んっと、ホテル東京。 高っいのに、そんなとこ1人で借りるってんだからスゴイよね。オジサンってのがイヤなんだけどね~。ま、そんな贅沢いってらんないけどさ。」

ホテル東京!?
スイート!?

思わず飲んでいたウーロンハイを噴出してしまうところだった。
そこは今回の仕事の仕上げをする場所じゃないか!

「・・・それは・・いつ?」

「んー、まだ詳しい日程は決まってない。生徒のオジサンの仕事の進み具合とかなんだとかあるんじゃない?近くなったらまた連絡するって」

「へー」

・・・まさか、会うなんてことはないよな。

「明日早いから帰るね!仕事頑張ってね~」

オレの心の中を知る由もなく、明るくのん気に帰っていった。

英会話の授業なんだから、そんな遅い時間でもないだろう。
そうだよな。考えすぎ。

さぁ、赤ん坊も寝たみたいだし釜めし食うか。

投稿者: sakuragi 日時: 2007年09月01日 01:17 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年09月02日

シャーロット

「あぁ、シャーロット?
明日はお願いね。くれぐれも失敗のないようにね」

「はい、分かってます。」

「そう、大丈夫ね。よろしくね」

「はい」


ふ~、なんかダメだなぁあのオバサン。
悪い人じゃないんだけどさ。

明日か・・・

もう一度イメトレしとかないと・・・

何回やっても緊張するんだよな。

・・・。

あ、あれも用意しとこう。

もう1回チェックしとこう。

何回バッグの中を確認してるんだろう・・・何度見直しても安心できない。

だいたいオバサンが「失敗のないように」なんて何度も言うから、こんな緊張を煽るんだ。
いい結果で終わらせたいなら、しつこい確認なんていらないのに。

あ、もうこんな時間。
ちゃんと寝とかなきゃ。

明日は長い一日になるから。










私、明日・・・

     人を殺します。

投稿者: sakuragi 日時: 2007年09月02日 03:33 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年09月03日

暗殺者

 日本で英語を教えていた姉が無残な遺体となって発見されたのは6年前。
 犯人はあの男にちがいないとロンドンの刑事たちに教えられたけれど、証拠という証拠はすべてもみ消され、これ以上の捜査はNO…との上からの指示で、捜査は打ち切られた。
 あれ以来、両親の間には喧嘩が絶えなくなり、私は家を出て復讐を誓った。

 そしてとうとう…
 やっと終わる。これで最後。きょうのためにこの世界に身をおき、やりたくない仕事もやってきたけど…あとはすべてを忘れて静かに暮そう…リュウイチ……

 
 ホテルの部屋の前に立ち、手袋をはめる。ベルを押そうとした、その瞬間、勢いよくドアが開き何者かに引きずり込まれた。

 「!!」

 とっさにバッグに突っ込もうとする手を強い力で押さえられた。

 (手袋?)

 私の手を押さえつけるその手にも…私と同じ特殊な薄い手袋がはめられている。
必死でもがく私の動きを抱きしめるように止めて…

 「落ち着きなさい。シャーロットさんね。…安心して、敵じゃないわ。」

 女!?

 あまりの驚きに言葉をうしないつつも、相手の顔を見ると…
 見たこともない女がうっすらと笑みを浮かべながら、じっと私の目をみつめている。

 「驚かせてごめんね。貴女が来るのは判ってた。…何をしに来るかも。貴女のこと、だいぶ調べさせてもらったわ。私?私は………ヨシエ。はじめまして、よろしくね。」

投稿者: sakuragi 日時: 2007年09月03日 10:41 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年09月04日

地下駐車場

いまごろ議員さんは、ホテルでお遊び。

地下駐車場でターゲットの車に細工は完了。

ターゲットには人の良さそうな物腰に隠された裏の顔があった。
秘密組織から女性を呼び出し、ホテルでさんざん楽しんだあげく、秘密の別荘につれていきさらに過激なプレーをする。
なかには命を奪ってしまったこともあるらしい。

ホテルから別荘へは真夜中に自分で運転していく。

そこが狙い目だった。
車にリモコン操作できる細工をしておき、別荘へ向かう途中の海沿いの道で待ち伏せし、事故を起こさせる。
その後すばやく車に近づき細工は回収する。

ターゲットがまだ生きているようであれば、そこでとどめをさす。


細工を再度確認し、あとは現場にさき回りしようと、自分の車に向かったそのときだった。

携帯にメールが

「ターゲットの様子がおかしい」

ホテルの警備システムにハッキングしているLBからだ


 くそっ、最後の最後の仕事で、予定が狂ってくるとは


普段ならまた計画を練り直すのだが、今回はタイムリミットもある。
今夜中に仕上げなくては。

しかたがない、最悪の場合、自然死にこだわってもいられない。


エレベータに乗りこみ、最上階のボタンを押す。


スイートルームのあるフロアにでる。

誰もいない。計画通り。

 何がおこったんだ、くそっ


拳銃にサイレンサーをセットし、足早にターゲットの部屋に近づく。

ドア越しには、いやに静かな感じだった。

 とにかく、中を確認せねば。


LBのつくった特殊装置は音もなくロックを解除した。

息をひそめ、拳銃を構え扉をそっと開けた…

投稿者: sakuragi 日時: 2007年09月04日 15:42 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年09月05日

sweet room

そっと扉を開き、素早く内部を確認し、部屋に入った。

照明はついていない。

神経が針のように研ぎ澄まされていく。

暗闇に目が慣れてくる。

そっと足を進めると、リビングのソファに人影を確認する。

サイレンサーを向け背後から素早く近づく。

ターゲットだった。絶命している。

テーブルの上には大量の睡眠薬。

 くそっ

 しかし、こいつは少し前までお楽しみだったはずだ。

 薬殺?

と、思った瞬間、視界の隅に人影をとらえた。

体は自然に反応し、素早く横っ跳びに回転しながら、引き金を絞る。

パスッ パスッ

人影が崩れ落ちる。

確実に腹部をとらえた。

別の人影が視界に入る。

さっと構えてさらに引き金においた指先に力を込めようとしたその瞬間だった。

「やめて!」

 その声は!

立ち上がりルームランプを一つだけつけた。おびえた人影が薄明かりに浮かび上がる。

 シャーロット…

「リュウイチ!? どうして…」

しばらく、茫然と見つめあっていた。

「やっぱり来たわね、リュウイチ。」

先ほど倒したはずの影が立ちあがった。

 ヨシエ??

「ふうっ、ちゃんと防弾チョッキつけておいて良かったわ。」
「だいじょうぶよ二人とも、落ち着いて。」

「私もあなたと同業なのよ。リュウイチ。 実は、そのいやらしい先生から、自分を狙う暗殺者を始末してほしいと依頼されたの。」

ヨシエは両手を見える位置に出して数歩近づいた。

「安心して、そんな気は全然ないから。」
「その時思ったのよ。こいつを始末しに来るのはリュウイチに違いない。じゃあ、こいつの始末は私がしてあげようってね。そしてあなたの仕事は私が引き継ごうってね。」
「もう引退するつもりでしょ。わかってるのよ。」

 そうだったのか。まったく。

「シャーロットさん、よかったわね。これでお姉さんの仇がとれたじゃない。」
「あなたは手を汚すことなかったのよ。」

「ありがとう、ヨシエさん・・・」

「さあ、早く行って。私は後かたずけをして消えるから。」

 OK。これで引退だ。いこう、シャーロット…

「あっ、リュウイチ、シャーロットさん、子供のことよろしくね!」

・・・・・・

投稿者: sakuragi 日時: 2007年09月05日 15:34 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年09月06日

・・・数年後・・・

地中海沿岸の小さな港

澄み切った青い空

朝からさんさんと降り注ぐまぶしい太陽

日に焼け、たくましい腕の男たちが、取れたての魚を水揚げしている

「よーし! 今日もばっちり捕ってきたぜ!」

「みろよ! りっぱなマグロだろ!」

「ヒュー!、こっちは海老が大量だぜ!」

「あじもたくさん捕れたぞ! ハッハッハ~」

「見ろよこれ!」

「ワァオ、でっけータコだな~」

「しかしいつ見ても気持ちわりーなー」

「でもこいつらの旨さがわかってるのは、わしら地中海の人間と、お前たち日本人だけだよな! リュウイチ!」

「よーし! じゃあ今日はこれからスシだスシ! 頼むぜリュウイチ!」

「おー スシとワインだ! イェーィ!」

「おーい爺さん朝から飲みすぎるなよ~」

ハッハッハッハッハ~~! ! ・・・・・・


 ハハ、まったく愉快なやつらだぜ。

 見よう見まねでしか覚えてない俺の包丁裁きでこんなに喜んでくれるなんてな。

 OK OK うまい魚食わしてやるよ!


港には女たちが待っている。

女たちも陽気な笑い声をあげながら、楽しそうにおしゃべりをしている。

黒髪の男の子の手をひいた、ブロンド美人が振り返り、微笑む

「お帰り、リュウイチ」

「さっ、向こうにまな板と包丁は用意してあるわよ。」
「また、スシパーティでしょ」

美人を肩に抱き、かわいい子供の手を引きながら、のんびり歩く。

 この子も、ずいぶん大きくなったな。かわいいもんだ。

 しかし、誰の子供だったんだろう・・・

さっと手を離し、子供が調理の用意してあるほうに駆けていった。

「もう リュウイチったら。ころんだら危ないでしょ。」
そんなシャーロットも、口元に笑みをうかべて後を追っていく。

「こら、待ちなさい」

子供が、まな板越しに、にっこりしながら振り返った・・・

 マッ、マスター???

・・・・・FIN・・・・・

投稿者: sakuragi 日時: 2007年09月06日 09:39 | | コメント (0) | トラックバック (0)

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