リビングの50インチ型のテレビが現職大臣の自殺のニュースを映し出している。どの局も同じニュースでもちきりだった。医師の会見、同僚のインタビュー、国会中継のリプレイ・・・が、特に注意深く見る気もない。彼の頭の中はもう次の仕事の事を考えていた。
こんな事は容易に想像できていた。前回のクライアントが今回のターゲット。奴等の世界では良くある話だ。
だが今回のターゲットはちょっと大物だ。より綿密な計画を練らなければならない。タイムリミットは8月いっぱい・・・7月の選挙で負けるか、辛くも勝ちを拾ったにせよ、もう奴はお払い箱ってことだろう。まぁそんな事は彼の知った事ではなかったが失敗は許されない。彼は今までに請け負った大きな仕事をもう1度思い出してみる。
平成の顔として頭角をあらわし、頂点まで上りつめたOの時、ダンディーな風貌とものごしで一世を風靡し、その後も党内最大派閥の長として君臨しつづけたHの時・・・。
いずれも仕事の難易度でいえば今回以上。あの時に比べれば今回はたやすい仕事に思えるが・・・大きな違いは2点。
1つは、ターゲットがまだ若い事。ターゲットが老いていれば消してしまう方法を多くの中から選択できる。しかし、若くて元気な人間に自然な感じで消えてもらうには少々無理をしなければならない。
そしてもう1つ。
今回の最大のポイントはタイムリミットだ。
普通、ターゲットが大物になればなる程、時間はたっぷり与えられる。短くて3ヶ月、通常は半年後にフィナーレを迎えれば良い。それだけ準備が大変なのを依頼する側も分かっているのだ。しかし、今回は・・・LBからのメールには何の感情もない、いつもの様にごく事務的なことが、なおさら「NO」と言わせないものを感じさせている。もちろん「NO」というつもりはない。いつもの様に淡々と片付けるだけだ。むしろ難しければ難しい程、彼は静かな闘志を燃やす方だ。
「・・・ハードな2ヶ月になりそうだ。さっそく準備にかかると・・・☆☆!!!???」
スヤスヤと眠っているので、すっかり忘れていたが、淡いイエローのベビーウェアを着た赤ん坊が夢でも見たのか、カーペットの上でクスクスと顔をゆがめて泣き出しそうになっているのが目に入った。
「1ヶ月預かる~~~~~?!」