突然のヨシエとの再会の驚きとともに、あんだけ注意深い行動にも関わらず自分の居場所が分かってしまったことへの驚きもあり、一気に空腹感は飛んでいった。
「な、なんでこんなところに。それに、どうしてここが分かったんだ。」
「背中に発信機をつけてあるから。」
発信機ぃ~!?
仕事を終えて帰宅する途中で着替えたからそんなものついていないはずだ。
誰かにぶつかった?・・・いやいや、少しでも人に顔を印象付けるということは危険なことだから、ぶつかることなんてない。じゃ、どこで。ってか、どこについてるんだ?
手で背中確認していると
「ま、そんなことはどうでもいいんだけど。今日はお願いがあってきたの。」
どーでもいいのかよっ、とサマーズの三村のような突込みを入れたかったが、ヨシエの表情が変わったのでやめた。ヨシエは持ってきた大きな黒いバッグを静かに開け、大切そうに両手で中のものをつかんだ。そして、中からヨシエが抱き上げたものは、
赤ん坊 だった。
「1ヶ月間この子を預かって欲しいの。この子はそんじゃそこらの子じゃないの。あなたに預けるってことは・・・言わなくてもわかるよね。」
シリアスな雰囲気のせいで思わず頷いてしまった。
「オムツはこれ。なくなったらメーカーは気にしないから通気性の良いやつを買ってあげて。ミルクはこれ。哺乳瓶の消毒はちゃんとしてね。泣いたらあやしてあげて。あ、その時にオムツもチェックしてね。これはお風呂の入れ方で、これはひよこクラブで・・・」
男の頷きを承諾と受け取ったヨシエは赤ちゃんの世話について一気に説明し始めた。
「ちょ、ちょっ、ちょっと待てよ。」
ホリがキムタクのマネをするような感じで、男はヨシエの説明をさえぎった。
「面倒な理由があるからオレのところに預けにきた、ってのは分かる。でもまだ預かるとは言ってねぇだろ。嫌だよオレ、赤ん坊なんて世話したことねぇし。だいたいさぁ、俺の生活分かんだろ。消すの専門で、育てるのは専門じゃないの。分かったら悪いけど他を当たってくれよ。」
「そうわかった・・・。」
「わりぃな。」
どうして謝ってんだ、と腑に落ちなさを感じつつも、シュンとしたヨシエを見て頼みを聞けなかったことに悪いと思った。しかし、
「でも大丈夫!何事も経験でしょ?こんなチャンスめったにないよぉ~?それに、小学校の頃飼育委員だったじゃん。基礎はあるから平気でしょ。私時間がないの、急がなきゃ。何かあったら連絡するから!ってことでよろしくねっ、じゃ!」
最後の言葉を言い切る前に、ヨシエはリビングに背を向けていた。来た時と違ってキレイにまっすぐ玄関に向かった。男が文句を言う前に、玄関は閉じられシーンとした部屋には赤ん坊と男の2人きりになった。
玄関の方に向いていた身体をリビングの方にやると、ソファーの上でムニムニ動く赤ん坊が目に入った。
どぉーすんだよコレッ!